インフルエンザ予防のための口腔ケア普及と実践の報告

インフルエンザ予防のための口腔ケア普及と実践の報告がございましたのでお知らせ致します。

医学研究・健康増進活動助成事業報告

インフルエンザ予防のための口腔ケア普及と実践

研究組織:夏目長門、鈴木俊夫、服部正巳、井村英人

 インフルエンザの予防は国民の健康福祉を考える上で非常に重要である。
 インフルエンザによる直接死因別死亡数の報告は年間2,000名前後で、著しく多いのもではない。しかし、死因別死亡数には現れない超過死亡(excess death, excess mortality)の、すなわちインフルエンザの流行により通常年と比較して死亡者数が多くなった場合、これをインフルエンザに関連した死亡者とみなす数値でみると併発した肺炎等も含めて1万人以上であろうと考えられる。
 過去のインフルエンザの大流行では、1918年のスペイン風邪(インフルエンザH1N1型)死亡者数4000万人が有名である。また、1968年の香港風邪(H3N3型)100万人がある。
 高齢化しているわが国では、インフルエンザの死亡の80%が高齢者と言われており、今後ますますインフルエンザ予防が重要となる。
 インフルエンザウイルスは、直径1万分のミリメートル即ち100ナノメートルとウイルスの中でも小さく、人の鼻孔や口腔より侵入して咽頭後壁など気道粘膜の表面の上皮細胞に侵入して、その中で急激に増殖する。食道を通過して胃まで達するインフルエンザウイルスは、胃酸により感染は成立しない。
 インフルエンザの予防は、人類の疾患予防の中でもあらゆる人に共通して重要なものであり、インフルエンザが流行する前に予防接種を受けることが重要である。
 本学会では、単に口腔ケアのみでインフルエンザが予防できると断ずるものではなく、口腔ケアの含めたわが国で行われているインフルエンザの予防の効果があるとされるものの収集分析を行い、学術委員会で効果があると判断されたものを報告する。
 予防方法は、予防しようとする個人により実施可能なものを自身で行ってみて、個人個人によりその効果を実践検証して自身にあったインフルエンザ予防法を確立していただくとともに自身の経験をもとにして周囲の人々にその経験を伝えることにより、日本人におけるインフルエンザ予防が国民的行動として行われることが望まれる。

口腔ケアによるインフルエンザ予防について

特に起床時は口腔内が汚染されているので通常の朝食後の歯磨きとは別に、起床時に少なくともうがい等の口腔ケアを行なう。また、可能な場合は、歯や舌の汚れを落とすことが望まれる。その後食後には、食渣の除去を目的とした口腔ケアを行なう。
 外出よりの帰宅後も同様に顔や手を洗い、インフルエンザウイルスを除去した上で口腔ケアを行なう。歯や舌に汚れがなければうがいで良い。
 就寝する場合は、室温が適切であることは、もちろんであるが、湿度が60%程度に保つようにすることが望まれ、温度計とともに湿度計を備えることが望まれる。
 不十分な場合はマスク(N95)の着用を使用することにより、吸気の湿潤を保つことができる。
 また、加湿器がない場合、ホテルなどでは6畳の部屋に十分濡らした大型タオル1枚程度をかけることによりある程度保つことができる。室が大きな場合、乾燥が強い場合はバスタオルを湿潤させ、湿度を保つ。またはホテルのバスタブに湯を張ってドアを開けるなど状況に応じた工夫が望まれる。
 室内、電車、バス等においても他者によるインフルエンザウイルス、さらに室内の乾燥がある場合はマスク(N95)を着用するとともに、可能な範囲でうがいを行なう。就寝前も口腔ケアを行なうことにより夜間の増悪を抑えることができる就寝前の口腔ケアと夜間による乾燥の可能性を軽減することが重要である。

含嗽について

 インフルエンザ予防において、特別な含嗽剤を使用すると効果があるという推薦は行わない。通常の水でも十分な効果が認められる。地域によっては梅干しを作成するときなどのいわゆる梅酢を少量水に入れることにより、梅リグナンの効果により効果があるとして、梅酢による含嗽を行っている。和歌山県ではインフルエンザ発症数が全国に比べ少ないとの報告もある。しかし、その理由を正確には断定できない個人が試みて、効果を確認することが望まれる。
 緑茶のカテキン等の効果による含嗽を薦めているものもあるが、これも梅酢と同様であるが、むしろ含嗽する水分を入手しやすいという意味で有意義と考えられる。
 緑茶にはカテキンとフラボノイドが含まれているので、効果があると言われているが、緑茶でうがいした場合、これを吐き出すことをせずに飲み込むことについては、インフルエンザ予防の観点からも緑茶による頻回により口腔内を湿潤でき、口腔咽頭の乾燥を予防できるとともにこれを飲み込み胃内に入ることにより、感染は成立しなくなるために有効である。
 特に口腔外に緑茶を吐き出せない環境下で、必要に応じて頻回に含嗽をする上では有効と考える。
 生姜湯による含嗽と飲み込みについては、生姜に含まれるショウガオールによる効果があり有効と考えられるが、各々が試みて個人による効果を確認すべきであろう。

口腔ケアと鼻腔ケア

 口腔ケアにより口腔内ならびに咽頭後壁を清潔にしても鼻腔ケアの重要性については、十分知られていない。鼻腔内は口腔と同様に非常に汚染された環境であるにも関わらず清潔にしようとする習慣は日本人にはほとんどない。現在では、鼻腔洗浄キットも市販されているので、口のうがいとともに必要に応じて鼻のうがいも行なうことが望まれる。鼻うがいは、体温に近いぬるま湯100gに1gの食塩を加えた容水を使用すると経済的で、生理食塩水に近いので鼻うがいの際の鼻腔粘膜への刺激も少ない。

あいうえべ体操

 インフルエンザ予防における特殊口腔ケアとしては、「あいうえべ体操」がある。これは、今井一彰先生が考案したもので、インフルエンザの予防効果もあると言われている。(https://mirai-iryou.com/aiube/)
この体操は特に費用もかからず難しいものではないので、個人で試みて効果の有無を確認してみてよいであろう。

その他のインフルエンザ予防として有効なもの

 最も有効なのは、体調を整えることであるが、外出時にはN95マスクを着用することである。その他ビタミン類を含めた十分な栄養を摂取、睡眠、防寒などに留意する。インフルエンザ流行期には、補中益気湯(N41)などの漢方薬を服用すると効果があるとの報告もある。

まとめ

 インフルエンザ予防においては、必要に応じた顔、手の洗いと口腔ケアは非常に重要である。しかし、これのみでインフルエンザを完全に予防することは困難であり、インフルエンザ流行前の予防接種、N95マスクの使用を含めた総合的な予防が必要である。
 重要なのは国民一人ひとりがインフルエンザ予防に関心を持ち、予防方法は予防しようとする個人により実施可能なものを自身で行ってみて、個人個人によりその効果を実践検証して自身にあったインフルエンザ予防法を確立していただくとともに自身の経験をもとにして周囲の人々にその経験を伝えることにより、日本人におけるインフルエンザ予防が国民的行動として行われることが望まれる。